浅野 薫

小説

夜を渡る羽音

幾千羽の蝶が闇の中を群れをなして飛んで行くのを、彼女は感じた。無数の聞こえるはずのない羽音が聞こえる。月は雲に隠れ、天空に光はない。灯りと言えるのは、彼女が持っていた手灯りのみだ。それでも、その蝶たちの羽が鮮やかに黒く光るのが解った。都の大...
小説

夜に薫る白梅

「よく来たね。まあ、持ってゆきなさい。美味しいよ」びっくりした。ぼたもちを前にしたお地蔵さんが、優しい声で話した様で。勿論、お地蔵さんが話すはずがない。そんな事解っているのだけれど。優しい声が本当に聞こえた気がしたのだ。心に。その道を通った...
小説

端境を抜ける風

彼が歌う。その歌にあわせて神様方の力が一本づつ撚り合わさり、更に暖かな光となり大きくなってゆくようだった。見ていて綺麗だなと思う。清いとは言えない存在だけれど、人間にも意味はあるんじゃないのか。…そう思った。お母さんはとても苦しんでいる。時...
小説

かの人によせて

「幸せでしたか?」初めて聞く彼女からの声だった。呼ばれた気がして、目を開く。薄暗い病室の夜。月明かりが僅かに入る病室で。腕に刺さる点滴。簡素な柵のベッド。外は風が強いのだろうか、窓からは尚暗い影が揺れる。こんなにはっきり見えたのは、何日ぶり...
小説

イリス

「まあ、姫様」くすくすと柔らかく笑う声に、戦慄が走った。これは、まずい。とにかくまずい。何かは解らぬが逃げねばならぬ。斜め前に立つのは、年老いた美しい狐だ。実年齢は解らぬが、それなりの年齢を重ねているはずの、姿は40後半の美しい人。女性らし...
小説

日常のあれこれ1

「姫の体調がまた悪くなられた様子で、今日の服はどう致しましょう...」中庭の一つに面した廊下の先に二人の古参の女房である。まだこの宮に入ったばかりの新人である自分が言葉をさし挟んでも良いか迷いながら、紗華は小さな声をかけた。「もし、宜しけれ...
小説

夏の終わりに

「あら。姫様からの文?」夏の終わりの夕暮れ時。開け放たれた窓から涼やかな風が髪を揺らしたと思うと、白いテーブルクロスの上に一つの文が現れた。慣れた香りにそうらしいと恋人に返しながら尋ねる。「よく解るね」恋人は少し驚いた顔をすると、自分の目を...
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ご挨拶

浅野のブログを始めてみることにしました。文章と三味線の音を、上げてゆければ良いなと考えております。 尚、三味線カテゴリーでダウンロード・ボタンをつけているものは、著作権フリーとします。ただし、年齢制限のある製作物・ホラー・スリラーへのご使用...