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端境を抜ける風

彼が歌う。その歌にあわせて神様方の力が一本づつ撚り合わさり、更に暖かな光となり大きくなってゆくようだった。見ていて綺麗だなと思う。清いとは言えない存在だけれど、人間にも意味はあるんじゃないのか。…そう思った。お母さんはとても苦しんでいる。時...
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かの人によせて

「幸せでしたか?」初めて聞く彼女からの声だった。呼ばれた気がして、目を開く。薄暗い病室の夜。月明かりが僅かに入る病室で。腕に刺さる点滴。簡素な柵のベッド。外は風が強いのだろうか、窓からは尚暗い影が揺れる。こんなにはっきり見えたのは、何日ぶり...
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イリス

「まあ、姫様」くすくすと柔らかく笑う声に、戦慄が走った。これは、まずい。とにかくまずい。何かは解らぬが逃げねばならぬ。斜め前に立つのは、年老いた美しい狐だ。実年齢は解らぬが、それなりの年齢を重ねているはずの、姿は40後半の美しい人。女性らし...
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日常のあれこれ1

「姫の体調がまた悪くなられた様子で、今日の服はどう致しましょう...」中庭の一つに面した廊下の先に二人の古参の女房である。まだこの宮に入ったばかりの新人である自分が言葉をさし挟んでも良いか迷いながら、紗華は小さな声をかけた。「もし、宜しけれ...
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夏の終わりに

「あら。姫様からの文?」夏の終わりの夕暮れ時。開け放たれた窓から涼やかな風が髪を揺らしたと思うと、白いテーブルクロスの上に一つの文が現れた。慣れた香りにそうらしいと恋人に返しながら尋ねる。「よく解るね」恋人は少し驚いた顔をすると、自分の目を...