日常のあれこれ 2

小説
Pacto VisualによるPixabayからの画像

ふわりと宙に花束が現れた。
彼女はそれを自然に降ろすと、腕に抱く。
様々な華の新鮮な香りが響きあい、部屋の空気が朝焼けのように澄んだ。
そうして彼女は眉を顰めたのだった。

ごく当たり前の主人の動作として、気にも止めていなかった女房がその気配に視線を上げる。
一つ一つの花を懐かしむように確認していた主人の指が、ある花の前でぴたりと止まっている。それを見て彼女は笑いを噛み殺した。

「まあ、姫様。火の姫もご出席されますの。この度の宴は全銀河系を網羅しますね」
宴というのは、勿論名目だ。各々の出席者がその前後に公式・非公式な会合や対談を山の様に組み、今、彼女も主人のスケジューリングで忙しい。
「あれが来るのか…」
「姫様、お好きでいらっしゃいますでしょう」

そう答えながら、彼女はかの姫の一族との案件を頭の中で総ざらえしていた。再度情報を最新のものとし、全体の方向性とそれぞれの目的、どこまでが譲れないところなのか(それ以外ならば余地がある)、関連する同僚と連携をとり、主人と話し合わねばならない。
一族を代表するのだ。長の意向も重要だ。

だから、出席を知らせる花束は宴からは相当前に回る。それは関係者への密かな合図でもある。

苦り切った主人の返してきた視線に彼女は婉然と微笑む。
「別に猫がバレて通じない相手でも結構ではございませんか。際どい話し合いにはそちらの方が面倒がございません。お互い、好意的であるのは重要なことでございましょう?」
「あやつは、私が猫を10匹被って賓客に応対するのをにこやかに見ているのに。一人になると大笑いするんだぞ」
「盗み聞きは逆恨みでございましょう」
「別に私が聞いてくるわけではなくて、風の方が伝えてくるのだ…」
正論に幼児の様な…という自覚はあるのだろう、それでも口に出さずにはいられないほど、主人に忸怩たるものもあるのは知っている。
姫も幼少から叩き込まれてきたものだ。相手のペースに巻き込まれない実力も自負もあるのだろうが、お互いバレバレな同年代…も嫌なものかもしれない。

「大体、あやつは熱血すぎる!」

かの姫の女房から、数回に及ぶ密談の打診があったのは、花束が一巡した直後であった。


一族は表立った会議には上層部を出さない。男性が主だった世界も多く、出席はほぼ男性の官僚級である。有能なものではあるが、実権はない。つまり外から見ると、一体誰が力を持ったものなのか解らないのである。