その声を滄浪に聴く 1

小説
Cindy LeverによるPixabayからの画像

「残っている声?」
「はい。王が消えた時に響いた音が残っているのです。滅多にないことですが。それを聞いて頂けませんか?」
「別に私が聞かなくても。その音を遡れば主に辿り着けるでしょう」
「やりましたとも!そして追って行った者達は誰も帰ってこなかったのです」

イリスはちらりと視線を斜めに上げた。本来なら、その妖の王がいる空間を。
「お邪魔しました。では、私はこれで」
さっくり逃げようとして袖を捕まえられる。
「イリス様!」
「大体、私だって妖ではないのよ。そんなに信頼しても良いの?」
「一族ですからね。我々を召喚したり、使役したりされたことは一度もありません。」
…自分でやった方が速いからな。
一族は基本的に妖を使わない。それ故、逆に仲がよく、本当に困った時は向こうから手助けにくる程だ。お互い様との関係だ。
まあ、同類とも言える。一族とて、時には神と呼ばれるし。

ほら、ビンゴ。
その淡く光る珠を掌に乗せて、聞こえてきた声に眉を寄せる。
これは神への歌だ。呼び出しでも命令でもない。
誠実なる敬意。
「王は喜んで行って、向こうで楽しく過ごしていると思われるけれどねえ」
「そうであっても困ります、こちらにも仕事というものが」
…うわぁ。女房達に言われるようだ。
「向こうに行ってしまった全員の仕事量は凄まじいのですよ。呼び返して下さい」
うちのあれらも怖いけれど、こっちの部下も強い。

「もしもし、お嬢さん?」
灰色がかった淡い黄色の毛の猫がどこからともなく現れ目の前に座った。